【珍書:其の5 『病草紙』】
2004-05-23
久しぶりにブックオフへ行った訳だが、その時思った事は、「漫画に勝る珍書なし」。諸星大二郎とか(この人の名前を挙げるのもどうかと思うが)…これ、古典だったら珍書中の珍書ですよ。
いつか、漫画の『珍書』も紹介したいなと、ちょっと思ったり。
またもや、前置きが長くなりました。今回は有名どころを。『病草紙(やまいのそうし)』
一口に『病草子』と言っても、様々な種類がある。web上で探しただけでも、以下の種類が見つかった。
『病草紙(関戸家本)』は、<奇病>をモチーフに描いた絵巻物である。成立は12世紀半ばと言われている。絵巻物とは言っても、現在は保存のため、今は一図ずつ断簡にされ愛知県の関戸家が大部分を所有している。
『病草紙』に描かれる奇病は、(白子)、(鼻黒)、<二形(ふたなり)>、<霍乱(かくらん)>、<陰虱>、<痔瘻(じろう)>、<ニセ医者で失明する男>、<歯槽膿漏>、<小舌>、<風病>、(不眠症)、<口臭>、<肥満>、<幻覚>である。
(※病気の名前は、中央公論社『日本絵巻大成』の分類にならった。< >内の画像は関戸家本。( )内は京傳本)
一見して分かるように、先天的なモノと後天的なモノ、病気とそうでないものが入り交じっている。当時、どういうものが「病」として捕らえられていたのか知ることができ、興味深い。
これを見ていると、当時の人々の好奇心と、悪意の無さっぷりに圧倒される。一種突き抜けた明るさというか何というか(笑)
『病草紙』は、服部敏良博士が医学的見地から研究されており、美術作品として見るよりもよっぽど面白い論を展開されている。
【有名どころ@『病草紙(国宝)』】
『口臭のひどい女』
都に女あり。見目かたち、髪姿あるべかしかりければ、
人、雑仕に使ひけり。よそに見る男、心を尽くしけれども、
(女の)息の香、あまりに臭くて近づき寄りぬれば、鼻をふさぎて逃げぬ。
ただ、うち居たるにも、(女の)傍らに寄る人は、
臭さ耐え難かりけり。
・美人なのに口臭がひどく、寄ってきた男が全員逃げてしまう…。ああ、この時代にリステリンがあれば。
絵の中で、女が手に持っているのは、現代の爪楊枝よりはデカい「楊枝」。当時は、この楊枝と塩で歯を磨いていた。
ちなみに歯磨きの習慣は、アフガニスタン-中国-日本と伝わってきたそう。
『ふたなり(半陰陽)』
中頃、都に鼓を首にかけて、うかし歩く男あり。
形、男なれども、女の姿にしたることもありけり。
(まわりの)人、これを覚つかながりて、(男が)夜寝入りたるに、
密かに衣をかき上げて見ければ、男女の根、共にありけり。
これ、ふたなりの者なり。
・ふたなり、今で言う半陰陽(インターセックス)者の事である。男性器と女性器を併せ持つ半陰陽は、世界各地の古典籍に存在が記されている。
ググって初めて知った事だが、絶世の美女・小野小町は、半陰陽だった説があるとか。是非、出典を調べてみたい話です。
『ニセ医者』
近頃、大和国なる男、目の少し見えぬ事のありけるを、嘆きたるほどに、
門より男(が)一人、入り来たり。
「あれは何者ぞ」と言へば、
(やってきた男は)「我は目の病を繕ふ医者なり」と言う。
家主、然るべき神仏の助けかと思ひて呼び入れつ。
この(医者と名乗る)男、目を引き上げて、よくよく見て、
「針して良かるべし(針を刺したら良くなるだろう)」
とて、針を立てつ。
「今は良く成りなむ(今に良くなりますよ)」とて、出て去ぬ。
その後は、いよいよ、(男の目は)見えざりけり。
ついに、片目はつぶれ果てにけり。
・中央公論社『日本絵巻大成』の注釈によると、この男は白内障(白そこひ)だったとされている。
平安時代の医学書『医心方』には、すでに白内障の手術法が掲載されているというから驚きだ。
残念なことに、この男はニセ医者に騙され、片目を失明してしまった訳だが。
と言うか、血、噴き出してるやんかと。
『病草紙』はグロいで有名だが、一枚一枚調べていくと、好奇とは違った本質が見えてくる。面白い。
この際なんで、世界における「疾患の歴史」を調べてみようと思い、「history sick」でググったところ…こんなサイトがトップでヒットした。
船出@ネットの海は、今日も順調。