【珍書:其の6 『塵劫記』】

2004-05-27

 いきなりですが、私は骨の髄から文系であったりします。
 つまり何が言いたいのかというと、数字関係はからっきし駄目ということです。
 会話のノリで『俺、数学ダメでさー』とか言うような、生やさしい話じゃないです。未だに、小学生用の算数ドリルが解けないくらいにダメなのです。
 繰り上がり、繰り下がりのある足し算・引き算ができない。消費税の計算は「100円」「200円」「1000円」しかできない。もちろん、店頭の「10%オフ」が計算できない……あと……
 気をとりなおして。
 
本日紹介するのは、江戸時代の数学書吉田光が著した和算書のベストセラー。
 塵劫記(じんこうき)』(吉田光由・初版・寛永4年(1627)発行)

 この本が世に出たことで、日本の数学「和算」の基礎が出来たとされるくらい、凄い本。
 現在は本の中味よりも、4桁基準の数の位(※)を決定した本という事で有名です。

 ※位…百、千、億、兆、京、垓(がい)、禾予(じょ)、穣(じょう)、溝(こう)、澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)、恒河沙(ごうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由他(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)。…と、巨大な数の位がこの本の中で決められた。
  (ちなみに、10の68乗の「無量大数」で打ち止め)

 塵劫記中で、吉田さんが独断で決めちゃった単位を、我々は今でも使っている訳だ。当の本人もビックリだろう。

 現在は「位」で有名だが、当時(江戸時代)は数学の基本書として大いに人気を博した。
 本の内容は、四則計算の方法、面積の求め方から、金・銀・米の測り方、絹の売り方など、生活に即した種々の計算が、図を使って丁寧に説明されている。

 ではここで『塵劫記』からの問題です。
Q:6里ある道を、4人で、馬三匹を使って乗り合わせる場合、何里ずつ乗れば良いでしょうか?

 『塵劫記』による解答はこちら

…とまぁ、他にもまだまだ、面白い問題が載っています。興味のある方は、現代語訳された和算書も色々出ているようなので、そちらを見てみるのも良いと思われ。
(色々と問題を紹介してみたかったのだけど…この問題以上に私が理解できる問題がなかったもんで…。)

 ところで今回初めて知ったのだが、全国各地の寺社仏閣には、算額というものが存在するようだ。
 江戸時代の数学マニア達が、問題の解けた事を神に感謝して奉納した絵馬の事らしい。
 面白いのは、次第に、解答のない難問を絵馬にして奉納する者が現れ、神社を訪れた別の数学マニアがその問題を解いていった事だ。
 この形態は、まさしく今の匿名掲示板に相通じるところがある。

 算額』についてのサイト。→「WASAN」
 サイトに掲載されている、「算額」の写真を見るていると、当時のマニア達の「数学萌え」っぷりが伝わってくる…。