【珍書:其の9 古典で見る「男装の麗人」】

2004-12-23

 日本人は、男装の麗人が大好きだ、と言いたい。


柳亭種彦『奴の小まん』

 よく知られているところで、『リボンの騎士』(手塚治)のサファイア、『ベルサイユのバラ』(池田理代子)のオスカル、『アニメ三銃士』(NHK)のアラミス。小説『幕末純情伝』(つかこうへい)の沖田総司

 果たして、日本人の「男装の麗人好き」は、どこからはじまったのか?
 古代では、アマテラスは男装してスサノオと対峙するし、神功皇后は男装して軍を率いた(とされている)。
 院政期には、白拍子と呼ばれる男装の女性による舞が大ブームを起こすし、昭和には川島芳子がいた。
 (古代は「男装の麗人好き」というよりも、儀式的要素が大きいかもしれませんが)

 男装の麗人が主人公になった、日本の古典文学で、有名な作品が3作あります。


  • とりかえばや物語(平安末)
     権大納言家には、若君と姫君がいた。若君は繊細で女らしく、姫君は活発で男の子らしい性格をしていたので、父親(権大納)は、互いの性別を逆にして育てる。
     ふたりはそのまま育ち、男装した姫君は宮中に出仕し、若君は女官となり後宮へ。
     更に姫君は女であることを隠し、右大臣家の姫を妻にする。女同士で子供が産まれるはずないのに、妻が密通で懐妊してしまったり、友人として付き合っていた宰相の中将が、「きれいだし、男でも良いや」とモーションかけてきたところ、女だとばれてしまい、そのままなし崩しに子供も出来てしまって…というドタバタギャグのような内容。
     ラストは、兄妹の性別を入れ替え、姫君は帝に入内。若君は姫君が男装していた時の官職…右大将(だったかな)になって、一件落着。
     自分は読んだこと無いんですが、『なんて素敵にジャパネスク』の氷室冴子が、これを元にした小説を書いてるんですね。しかも漫画にもなっています。
  • 『在明の別(ありあけのわかれ)(平安末・『とりかえばや』よりは後)
     上の『とりかえばや物語』の影響を受けた作品。『とりかえばや』と同じく、男として育てられた姫君が宮中に出仕するが、この作品は姫君だけで、若宮は出てこない。
     男装した姫が不思議な隠れ蓑を使い、世の男達の行動を観察しているうちに、義理の父親に言い寄られて困っている関白家の姫君を見つけ、そのまま家に連れて帰って来、自分の妻にしてしまう。
     色々あって、『とりかえばや』と同じく、妻は妊娠。主人公が知らぬ内に妻には愛人ができていた。
     そうこうしている内に、主人公も帝に女であることがバレ、一夜を共にしてしまう。
     慌てた主人公の父親は、主人公を山奥に隠し、一旦「死んだ」ことにする。そして、髪の毛がきちんと女性らしく伸びた頃を見計らって、帝に入内させる。
     主人公はその後、帝の子供を産み、栄華を極める。…『とりかえばや』ならここで大団円なのですが、『在明の別』はその後、元妻(変な感じだな)の息子が、主人公に亡き父の面影を重ねて(実の父親は別だけど)、複雑な恋愛感情を抱いたりなんやらと続いていく。
     最初の方を読んだきりなので、内容あやふやでスイマセン。
  • 『奴の小まん(やっこのこまん)(江戸・柳亭種彦
     時代は一気に下って江戸時代。男装の麗人というよりは、女版任侠物語。
     親の仇討ちをするため、男として寺に潜伏する少女「小まん」。和尚に「美しい小姓だ」と思われ、モーションをかけられ、女とバレる。しかし身の上を話すと、いたく同情した和尚は小まんに手を出すことをやめ、そのまま坊主として寺に置く。(良い奴だ)
     そんな折、同じく敵から身を隠すため女装した男(名前忘れた)が、寺に足繁く通うようになり……外から見れば「男女のカップル」だが、お互いにしてみれば相手は同性。心中で、(´-`).。oO(この人が男(女)だったらなぁ) と想いを募らせるという、ラブコメの萌芽を垣間見せてくれます。
     まぁ、結局、お互いに相手が異性だと気付き、くっつくんですが……小まんに想いをかけていた和尚が、激怒したのは言うまでもない。(和尚にしてみれば、女同士でイチャイチャしていると思っていたから)
     寺を追い出された小まんと男は性別を元に戻し、任侠道を突っ走る。…というような話。

 《主な共通項》
 ・男装の麗人が主人公(当然ながら)。
 ・男社会で、女だと隠して生活している。
 ・とても有能。美形。そして女にモテる。
 ・女装の男性も出てくる(『有明の別』除く)
 ・何かの弾みで、女だとバレる。
 ・バレた相手と恋愛関係に落ちる。
 ・他にも多数、想いを寄せられる。
 ・最後は女の姿に戻り、ハッピーエンド。

 男装の麗人ですが、「日本」に限った事ではありません。
 お隣の中国にも、男装の麗人が出てくる小説はたくさんあります。
 例えば、皇なつきが漫画化した中国の伝奇、『梁山伯と祝英台』東晋?)。
 これは良家のお嬢様・祝英台(しゅくえいだい)が、女であることを隠して学校に入り、学舎で意気投合した梁山伯(りょうざんはく)との悲恋です。
 あとは、ディズニーがアニメ化した『花木蘭(ムーラン)』。老いた父親の代わりに、戦場へ赴く娘の話。田中芳樹も小説化してるみたいで…機会があれば読んでみたいです。
 数を当たっていないので断言はできないのですが…、中国の「男装の麗人」は悲劇で終わる話が多いような気がします。
 日本の「男装の麗人」はコミカルな部分が多いんですが、中国では、身分差や戦乱やらと、シリアスタッチになっていますな。
 あと、中国には正史に残っている秦良玉という女将軍がいまして…これは、井上由美子が小説化してます。
 西洋の古典文学には疎いんですが、シェークスピア作品には『十二夜』のヴァイオラや、『ベニスの商人』のポーシャなど男装の麗人が出てきますねえ。
 古今東西の「男装の麗人」を扱った文芸作品、当時の需要のされ方など、比較検討してみたいもんです。