【珍書:其の8 『野史事典』】

2004-11-01

 レポートのせいで、ちょっとどころじゃなく、更新が滞っていました。
 大学のレポートと発表&教授の酷評に、身も心もパンチドランカーな12v電源です。皆様、如何お過ごしでしょうか?
 台風やら地震やらイラク人質事件やらで、もう、ここのところ、何がなんやら分かりませんね。
 そんなこんなで、毎日、朝から晩まで図書館の書庫に籠もりっきりなんですが、先日、ちょっと息抜きにコーヒーでもと大学構内を散歩してたんですよ。
 すると、妖怪レーダー…違う、第六感が訴えかける、芳しい気配がしたんです。
 行ってみると、古本屋が大学へ出張販売に来てたんです。
 で、買っちゃいました。今回の珍書。


『野史辞典』八切止夫・日本シェル出版)。
 財布に千円しか入ってなかったので、まず無理かと思ってたんですが、店番しているお兄さんに訊くと、なんと「650円」とのこと。
 断言しますが、…絶対に、間違えてます。この値段。
 もちろん、他人のご好意は、素直に受けるのが礼儀だと思っていますので、何も言いませんでしたが。

 『野史事典』ですが、何が凄いって、まず作家が凄い。
 八切止夫(やぎりとめお)大正生まれの歴史作家であり、民族学者。独自の(※)サンカ研究で有名です。

 ※サンカについては、色々と諸説が流れていますが、一応、辞書に載ってあった解説を転載します。(説によって見解は違います)
<さんか(山窩)…山間を生活の場として漂泊する民衆だが、近代にはその存在をつきとめがたくなったため、かれらの民族を調べることは困難である。散家・山稼とも記したが、オゲ・ノアイ・ポンなどと称していた。けれども本来の日本民族と同じで、ただ生活条件が一般の農漁民と大いに違うので、やや特殊視されていた。彼等は季節的に夏は北、冬は南にと移動する傾向を持っていた。洞窟に住んだり、天幕を張って暮らすこともあった。そのほか仲間だけの用語を持っていた。これをサンショコトバという。(中略)箕や下駄・竹籠などを作って町に現れ、門ごとに寄って売り歩く姿が近年まで認められた。(中略)農耕社会が日本の主体になり、農民が主軸になった日本人のあいだでは、こうした山人がいかにも異質に見えたため、軽侮や畏怖をうけがちだったのである>(『日本民族事典』大塚民族学会・弘文堂)より
 サンカ研究については、柳田国男三角寛、そして八切止夫が有名どころです。
 しかも、最近ではメディアにも取り上げられたり、ちょっと大きな書店へ行くと、サンカ関連の書籍が並んでいたりと、結構盛り上がりを見せている分野です。うーん、フォークロアってやつですか。
 こういう分野は、世界情勢が不安定になるに従い、更に盛り上がっていくような気がします。

 で、話を元に戻します。八切止夫
 サンカ研究で有名ですが、この人の歴史観は『八切裏がえ史』として一部の世界ではもの凄く有名です。
 上杉謙信女性説や、明智光秀冤罪説がその最たるものです。
 私は歴史専門ではないので、この説がトンデモなのか、真実に基づいた検証なのかは判断できません。
 ただ、純粋に「面白いこと言うなぁ、この人」と思います。(真剣に研究してらっしゃる方には、失礼な物言いですが)私の中で、「面白い」というのは、最重要課題なのです。

 そんな八切止夫作の事典、それが『野史事典』。
 オビの裏文句には、
「死ぬ前に真実を知り日本を譲ろう。歴史の謎は各頁ごとに数秒で判る。従来の歴史常識には衝撃な、日本版コーラン
 とか書かれてある。
 「あ」から順番に事項が載っている辞書かと思いきや、「あ」の次は「か」とくる。
 「あいうえお」順ではなく、「あかさたなはまやらわいきしちに…」順の辞書なのだ。あり得ません。
 事典だから、いっぱしに「凡例」がついている。
 一般の辞書の「凡例」には、表記をどうしたかとか、典拠をどこに求めたかとか、マークの意味なんかが、箇条書きで書いてある。
 『野史事典』の凡例は、文章で延々4ページに渡って書かれてある。しかもその内容が、
<(前略)俗に「八切史観」とよばれる私の愚かしき真実の追究は289頁の「戸籍」の項でふれているが、私が私でないからである、と言うと唐突で奇妙に思われるだろうが宗旨違いで母方と父方が仲が悪く、私の上の兄の入籍で揉めにもめたのに懲りたのか私自身が生まれた時に、流行性感冒で夭折した兄の戸籍を抹消せずその儘で冠せられた。つまり私は2年前に生まれて大正5年に亡くなった亡兄の名と戸籍を背負い、今で言えば5歳で小学校へ通わされた。ナフタリンを囓ったら死ぬときかされていたせいかかじっている処を18粒めに見付かって吐かされた。何回となくその後も性懲りもなく繰り返したのも虚しさの為だった。それが何故に過去の具象への真実を探求しだしたかといえば、マッカーサー解任時のポスト紙を拾い読みしたからである。(以下略)>
 もう、なにがなんだかわかりません。
 辞書本文は「アマの原」から始まり、「天孫」「天慶の乱」「藍」「阿比図国」「相対死」「愛知郡」「アイヌ」…と続いて行きます。