【珍書:其の2 『海外異聞』】

2004-05-20

台風襲来にも関わらず、
 図書館で、イカした本を見つけました。

 『海外異聞』全5巻(靄湖漁叟撰・嘉永7年(1854))
発行)

 この本について調べてみたところ……

天保12年 (1841) に 『漂流人善助聞書』 の井上善助と共に漂流した乗組員の1人、 阿波国の農民初太郎がスペイン船に救助され、 カリフォルニアから清国経由で弘化2年 (1845) 長崎に送り帰され、 阿波藩に引き取られ、 藩主蜂須賀斉裕に引見、 漂流の顛末を儒臣前川文蔵が聞き取り編集した 『亜墨新話』 を序と識語を省いて、 5巻5冊として刊行されたものである>
 ……とのこと。
 参考させて頂いたサイト→京都外国語大学付属図書館

 初太郎が漂流した天保12年と言えば、水野忠邦天保の改革を行った年。
(ちなみに、この本が刊行された前年(嘉永6年)、ペリーが浦賀に来航しています。この本が出版されたのも、そこらあたりの事情に起因しているのかもしれない。版木が1年程度で彫れるかどうかは不明ですが、国内で海外熱が高まっていたのは確かでしょう)
 漂流記と言えば、映画「おろしや国酔夢譚」の元ネタにもなった、大黒屋光太夫が有名。シベリア横断、単身でエカテリーナ女王に謁見、そして無事に帰国するも、鎖国中に海外へ渡ったという理由で幽閉生活を送る……。そんな光太夫のような波瀾万丈さは、この本には全くない。
 好奇心旺盛な親父の、物見遊山に近いです。

……という訳で。
 内容の面白さに、図書館でコピーを取りまくっていたのですが、
 ネット上にデータベースとして、文献資料を公開している素晴らしいサイトを見つけました。
「東京商船大学ディジタル資料」(ここに『海外異聞』も掲載されています)(ここに『海外異聞』も掲載されています)

 それでは『海外異聞』の面白ページを、私の適当極まりない翻刻でお楽しみください。
(改行・句点・漢字変換は読みやすいように、手を加えています。■は、判読できなかった文字です。コンチクショウ)

『メサの図』(click)「メサの図 飲食する台の名
 すへて飲食時は、この台の上に。
 肉るいを沙鉢(サハチ)に盛たるをならべ、人々コシカケ小据して食ふ。
 周囲には麗しき花布(サラサ)を垂れ、上には白き西洋布(カナキン)をしける也。
 箸を用ゆるといふことなく、銀にて拵へたる包丁と、匙と、小さき熊手の如きテネドルといふ物とを、銘々の前におき、自由に切てテネトルに突さして食也。」
●“テネドル”て何やねんと小一時間。フォークの事なんだろうが…。嘘を教えられてないか。初太郎。


『人物』ページ1(click)
『人物』ページ2(click)「人物
 亜墨利加(アメリカ)の人物、其、種類一ならず。大抵別れて四種となる。
 其一は欧羅巴の諸別、伊西杷你亜(イスパニヤ)佛郎察(フランス)意太利亜(イタリア)韻厄利亜(イキリス)阿蘭陀等の人来りて、住居するものなり。
 其二を支利與飲(シリヨイン)といふ。其地の婦女、欧羅巴人と交りて産たる者なり。
 其三を尼ゲ尓私(ニゲルス)と云。其先、亜細亜(アジア)、亜弗利加(アフリカ)の諸国より来て住居するものなり。
 其四をウシルテといふ。是は従来の土人をして、其、野卑粗暴なるものなり主(?)に漁猟のみを業とし、屋舎の制もなく、男女上での差別もなく、禽獣に異ならずとぞ。
 初は■が滞留を、角利弗你■(カリホルネ)あたりの人物の衣服は西洋人の通なれども、かたちは日本人に変はるるなく、眼睫(まなこ)も黒く、髪も黒しといへり。
 是、尼ゲ尓私(ニゲルス)の種類なるにや。又、巴太温等(ハタオントウ)の地の人は、皆、長大にして、■丈有■(じょうゆうよ)の身躰なり。■牛一、是を一度に食尽し、よく酒すとを飲む獣皮(けだもののかわ)を衣とし、常に弓矢を携へ、よく■走、よく水を泳ぐ。
 亜馬作ネ(アマソネ)の近辺……
(くそっ、腹が減ってきたので、中略)
……中央山谷のあいだに住る土人は、多く醜悪にして、ヒロウ(卑しい)なり。程々(?)裸体、文身(ホリモノ)のものあり。
 また物は■が、もろこしにて会ひたる漂流人の物共は、彼等がながされたる北亜墨利加の内、勃私通(ボストン)の都の領分の■男女とも獣皮を衣服とし、つねに自ら小便を手に受て、顔を洗ふ。面しろく、玉の如く麗しきといへり」
 今すぐ、藤岡隊長を現地に派遣しましょう。

(※この記事は2004年に書かれたため、現在、東京商船大学(現・東京海洋大学)へのリンクが切れています。申し訳ございません)