【珍の探求:其の3 『ポルタトーリ 選ばれし者達』】

2005-02-27

 特に「珍」ではありませんが、気になったことを。

 NHKBS放送に、良質なドキュメンタリーを紹介する「BS世界のドキュメンタリー」という番組があります。面白いのでよく見てます。
 ここで、【動脈硬化との闘い「新薬開発の舞台裏」】という番組が紹介されていました。

BS世界のドキュメンタリー「動脈硬化との闘い〜新薬開発の舞台裏」

 伊・ミラノ郊外の一部の住民の遺伝子を用い、コレステロールを減少させる新薬の臨床実験に成功したという科学者の証言とCGをもとに、新薬開発の舞台裏を取材。
 2004年、アメリカ制作


 イタリアのリモネという小さな村に、「ポルタトーリ(遺伝子を運ぶ者)」と呼ばれる人々がいます。世界中でたった38人しかおらず、全員が、この村の住人です。
 ポルタトーリは、「アポA-1ミラノ(APOLIPOPROTEIN A-1 MILANO )」と呼ばれる特殊な変異した遺伝子を持っています。
 「アポA-1ミラノ」は、正常な「アポA-1」と比べ、173 番目のアルギニンがシステインに変異しており、システイン同士がジスルフィド結合を起こすため、通常の人よりも、コレステロールの吸収速度が速いそうです。(私もよく分かっていません)
 つまり、この遺伝子を持つ者は動脈硬化になりにくい。そのため、長寿な方が多いようです。
 通常、遺伝子の突然変異が起こると、マイナス要因として現れる例がほとんどだそうです。ポルタトーリは、極めて特異な例でしょう。

 では、誰が一体、リモネ村に「アポA-1ミラノ」を持ち込んだのか? 誰の体で遺伝子が変異したのか? 
 これは、はっきり記録が残っています。

驚異の大宇宙・人体Ⅲ/遺伝子DNA より抜粋

研究者達はおよそ300年前に最初のポルタトーリが現れたと推測しています。その決め手になったのが村の中心にあるセント・ベネディクト協会に残された古文書でした。
 リモネ村は第二次世界大戦まで陸の孤島だったので、村人達で結婚するのがほとんどでした。
 この協会に伝わる洗礼の書・婚礼の書・葬儀の書。ここにルネッサンス以降、全ての村人の誕生・結婚・死亡の記録が残されていました。もちろんそこには今生きているポルタトーリ達の誕生の記録も入っていました。
 そこに記された両親の名前を手掛かりに、親から親へとさかのぼると、ポルタトーリ達の祖先がたった一人の人物にたどり着きました。
 1654年に生まれたポマロリ・ジョパンニ(※)。
 おそらくこの男性に突然変異が起きたために、ポルタトーリが誕生したと思われるのです。


 遺伝子の船が、1人の男から出航した訳です。
 ジョバンニ自身は、何も知らずに亡くなったんでしょうね。何とも不思議な感じがします。

※海外サイトでは、「ポマロリ・ジョパンニと、その妻ローザ・ジョバンニの子孫」と書いてあるので、変異遺伝子を持っていたのは奥さんの方かもしれません。(スイマセン、そこら辺はあやふやです)

 1979年にリモネ村でポルタトーリが発見されてからは、村人全員(約1000人)の血液検査が行われるなど、一時期は凄い騒ぎだったようです。想像に難くありませんが。
 ドキュメンタリーの最後に、ポルタトーリのお婆さんがインタビューに答えて、
 「血液検査なんかがあったけど、人の役に立てて本当に嬉しいのよ」と、言ってました。
 こういう村で健康な生活をしていれば、「アポA-1ミラノ」の保有者でなくとも長生きできそうな気がします。

 えーと、「アポA-1ミラノ」が手軽な経口薬になったら、マクドナルドのハンバーガーに、お好みでトッピングできるってのはどうでしょうか。
  「特定保健用食品 ビッグマック
 何かもの凄い矛盾を秘めた、素敵なハンバーガーです。
 大好物はマクドナルドと公言して憚らないビル・ゲイツ氏の力をもってすれば、実現可能だと思ったり思わなかったり。


<参考サイト>
COSMOS (CENTURY25に、DNA関連情報)
「構造ゲノミクス:構造に基づく創薬」
Apo A-1 Milano(英語)