【珍所:其の2 『女2人旅 恐山紀行』】

2005-02-16

 そういえば、珍所はあまり紹介していなかったので、今回は有名な「恐山」を取り上げてみます。
 有名すぎて、どこが「珍」なんだと思われるかもしれませんが、色々と面白い出来事もあったので、とりあえず記憶がボケないうちに書いておきます。

 ×年前、友人M嬢に誘われ、青森県の恐山へ行く機会がありました。(当時は2人とも女子大生)
「どうせ行くならイタコのいる時期に」(※)
 ということで、これから寒くなろうという10月に、わざわざ本州の最北端まで行くことになりました。

※…イタコさんは年がら年中恐山にいるわけではない。「大祭」と「秋詣り」」期間中しかいない。
 
 「とりあえず夜行列車に乗ってみたい」という友人の希望により、夜行列車 日本海に乗って青森駅まで向かったんですが、これがもう大変でした。
 B寝台の上段ベッドで寝てたんですが、電車が停車する毎に、もの凄い振動が襲ってくる。私はどこでも寝られる方なんですが、さすがに体が慣れてくるまで、駅毎に目が覚めました。
 何より、同じ車両に乗り合わせた親父どものうるさいこと。
 歌に「北へ帰る人の群れは誰も無口で」とあります。あれは全くの嘘っぱちです。
 田舎へ帰る高揚心+アルコールの勢いで、深夜まで騒ぐ騒ぐ。意味不明なことを喚くたびに、どっと笑いが起きる。これの延々繰り返し。
 あんたら、本当に意味が分かって笑っているのかと。胸の内でツッコムことしきり。
 まぁ、親父さん達はこれが楽しみで、そう安くもない夜行列車に乗って帰るのでしょう。
 しかも親父衆の朝は、やたらと早い。
 昨日の酔いは何処へやら。五時頃から起き出して、もの凄い勢いで通路を行き来してくれやがります。本当、勘弁してください。
 これが東北人のアセトアルデヒド脱水素酵素の威力かと、完敗した思いでありました。

 さて、青森駅からは、電車で下北駅へ向かいました。
 本来は、大畑線という本州最北端の路線に乗り換えるはずだったんですが、廃線間近だということで、バスで恐山まで行くことになりました。
 このバスが、また何とも言えない殺伐感を醸し出してくれました。
 何が凄いかと言うと、車内放送に地蔵和讃が流れるのです。

「♪二つや三つや四つや五つ。十にもたらぬみどり子が
 賽の河原に集まりて。父上恋し、母恋し、
 恋し恋しと泣く声は。この世の声とは 事変わり
 悲しさ骨身を通すなり……」


 静まりかえる車内。ありとあらゆる意味で、ムード満点です。

 何はともあれバスは山間を抜け、ついに恐山へ。
 バスを降りた途端、鼻を突く硫黄臭。
 道のど真ん中で硫黄が泡立ち、黄色い水たまりを作っている。踏んで良いのか悪いのか。

 ちなみに「恐山」とは、慈覚大師円仁開基の恐山菩提寺を中心とした一帯を指します。
 寺の総門・山門はあるのですが、壁や敷居は無い。だだっ広い岩と石の風景に、お堂が点在している。その後ろには、連なる山々。
 私が普段慣れている、京都や奈良の「どこからどこまでが寺の敷地」という感覚じゃなく、「見えてる範囲が寺」の世界なのです。
 それ以前に、他の建物が無いわけですが。

 入山料500円を払って門をくぐる前に、巷で有名なアレを食べました。
 恐山名物「合掌 霊山アイス」
 確かオレンジ味だったと思います。本当、普通に美味しいです。
 秋深まる10月の青森山中で食べるアイスは、身も心も懐も存分に冷やしてくれました。(霊山アイスは下界よりも少々高値)
 これが潔斎代わりだったのかもしれません。煩悩だらけのアイス垢離。

 恐山菩提寺の内部は、大変失礼な言い方をすると「仏教テーマパーク」です。
 占い(イタコ)あり、スパワールド(温泉)あり、アトラクション(地獄巡り)あり。ただし対象年齢は非常に高めですが。

 山門をくぐると、すぐ横に小屋のようなものがズラっと並んでいます。小屋の中にはひとりずつイタコさんがいて、その前に人が列を作って並んでいます。


 遠くから眺めていても、白装束を身に纏ったイタコさんの口寄せが聞こえてきます。風景に混じる独特のイントネーションと訛り。


 これが恐山の日常風景なんだなぁと、理由なく納得したり。

 境内には、何ヶ所も硫黄が泡を吹いていており、そこが様々な地獄に見立てられています。
 地獄を抜けると、白い極楽浜(賽の河原)と、真っ青な宇曽利湖が眼前に広がります。白い砂浜に真っ赤な風車がカラカラ回り、小さな手積みの塚がいくつもある。
 宇曽利湖は、とてつもなく静かで美しい湖です。
 強酸性のため生き物(※)はほとんど住めないらしく、水辺に近寄って見ると、細かい炭酸の泡が湖底から一直線に連なって出ています。
 無機物の静けさが、こめかみに痛い。

※…魚類は、ウグイだけが住んでいる。宇曽利湖産のウグイは、エラの塩類細胞が特殊な発達を遂げており、強酸性下でも生存可能という世界的にも珍しい魚。
 参考:宇曽利湖のウグイえらに特殊機能


 「順路」と書いてあるが、一体どこへ進めばよいのやら。

 恐山紀行は、何だかよく分からないまま下へ続きます。